aCaeさんと出会ったのは, 2011年の初夏のこと.

3月に大きな震災があって, 少し心が落ち着きはじめた5月頃から
縁あって仲良くなったばかりのデザイナーユニット「あちらべ」たちと
一緒に宮城県石巻市沿岸部の小さな町を訪ねるようになり,
4月に目黒にオープンしたばかりの彼らのオフィスで, 何時間も
何時間も, 顔を突き合わせて自分たちの気持ちのこと,
自分たちにできること, 自分たちがやりたいこと, を
心の奥の奥まで掘り下げて話し合いを重ねたりしていた頃のこと.

aCaeさんはわたしと同郷の高知出身で, 同じく震災の直後に知り合った
高知出身アーティストの園部信教くんと一緒に下北沢の小さなお店で
ライブをするときいて, 夫と一緒に駆けつけた.

はじめて聴いたaCaeさんの音楽は, 深い深い暗闇のなかにそっと灯された
小さなあかりのような, 絶望のなかでやっと見つけた小さな希望のような,
決してまだ確かなものではないかもしれないけれど, からだのなかに
ふつふつと沸き上がってくる感動の粒がはじけていく心地よい時間だった.

そんなちょっとした感動の粒に、あの頃どれだけ救われたかわからない.

東京で震災を経験したaCaeさんと園部くんは, 下北沢でのライブのあと
「On the Way Home」- 家への帰り道というタイトルのツアーを企画し
ふたりの故郷・高知が最終地点となったツアーに出かけた.
震災を経験して, いろんな場所をもっと見てみたいと思ったそうだ.

ちょうどその頃高知では, まだ自分たちでイベントを企画することも
できていなかったのだけど, 友人たちが企画するライブを
Ustream配信するお手伝いを始めた頃で,
「On The Way Home Tour」最終日, 高知・アジア食堂歩屋でのライブも
配信をすることに.

東京で音楽活動を続けてきたaCaeさんにとっては, 初の凱旋ライブとなったその日,
Ustreamで配信をしていたら, それを東京で観ていたあちらべの宇田祐一が
「あ、これ一番好きな曲だ」と呟いているので, 聞いてみると
なんと宇田っちはわたしがaCaeさんに出会うよりもずっと前にCD屋さんで
aCaeさんのファーストアルバムをジャケ買いして聴いていたというのだ.
びっくりしたけど, 縁なんだなぁと思った.

2011年はその後, あちらべと共に約１ヶ月に一度のペースで石巻市の雄勝町や牡鹿町に足を運んだ.
東北道を走る深夜バスのなか, ヘッドフォンをつけてaCaeさんの曲をよく聴いた.
南の高知から遠く離れて東北へ向かうとき, やっぱりいつもどこか
緊張していて, その固くなった身体をそっと癒してくれる気がしていたのだ.

あれから少し時間がたって, 東北への旅は少なくなってしまったけれど
わたしは地元・高知を中心に音楽のイベントを企画したりするようになり,
あちらべも本来のデザインの仕事や「こちらべ」での企画が軌道に乗り,
ここにきてはじめて, 一緒に何かやろうよ、という話になって
お互い一番に挙げたのが, aCaeさんのライブだった.

2011年という特別な年に出会ったために, こうやって振り返ると
やっぱり震災のことと切り離して語ることができないのだけど,
いまのわたしに, そして来てくださるお客さんたちに,
いまのaCaeさんの音楽は, どんなふうに届くのだろう.
震災をきっかけに長い間離れていた故郷にも度々戻るようになった
aCaeさんは, いまどんな気持ちで新しい音楽を作っているのだろう.

音楽は受けとる人それぞれ, そして受けとる瞬間それぞれ
きっとそのときの自分にとって最も必要な形で届けられるように思う.
新しい感動の粒を, とても楽しみにしている.

aCae -夢について-

aCae　／　www.acae.jp

園部信教　／　www.facebook.com/sonobenobukazu

山口　翠（ファイブウィッツ）

高知県出身. 四国山脈のふもとで幼少期を過ごし, 16歳で憧れの英語圏に単身渡り,
学生生活を送る. カナダのブリティッシュ・コロンビア大学を卒業後に帰国,
米系通信機器メーカー, 環境・CSRコンサルティング会社を経て
夫と共に株式会社ファイブウィッツ（Five Wits）を設立.
東京と高知を行き来しながら, それぞれの場所でプロジェクトに携わり,
高知ではお米作りにも挑戦中.

主に, 音楽, 暮らしと文化全般に関連したイベントやプロジェクトの企画・運営,
インディーズ・レーベル運営＆アーティスト・マネジメント,
翻訳, リサーチ, 執筆活動など.

ミドリの窓口　／　www.five-wits.jp/midoryza

このコラムでは, ライブまでの１ヶ月間, 企画者それぞれが,
aCaeさんの音楽との出会いの物語を記していきます.

第１回 ／ 山口翠（ファイブウィッツ） 1.17up
第２回 ／ 宇田祐一（あちらべ・こちらべ） 1.25up
第３回 ／ 赤羽大（あちらべ・こちらべ） 2.4up
第４回 ／ 山口智之（ファイブウィッツ） 2.7up

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